2018年頃から、日本球界では選手会を中心に現役ドラフト導入への機運が高まっています。
2019年12月には、現役ドラフトの具体的な制度や、「ブレークスルードラフト」という仮称が明らかになるなど、導入に向けた準備が進んでいます。
ところで、このような現役ドラフトは、メジャーリーグでは「ルール5ドラフト」という名称で、既に行われています。
今回の記事では、このルール5ドラフトについてお伝えします。
MLBで導入されているルール5ドラフトとは?
ルール5ドラフト(Rule 5 draft)とは、メジャーリーグにおいて、他のチームに所属している選手を指名し獲得するという制度であり、この制度により、他のチームの選手が十分な機会を与えられずに、マイナーリーグで飼い殺しになることを防いでいます。
なお、ルール5ドラフトという名称は、この制度がメジャーリーグ規約の第5条にて規定されているためです。
しかし、他のチームに所属している選手を獲得し放題というわけではなく、細かいルールが多く定められています。
- 獲得できるのは40人枠外の選手のみ
- 入団したばかりの選手は指名できない
- 指定のレベルでプレーさせなければならない
① 獲得できるのは40人枠外の選手のみ
ルール5ドラフトで獲得することができるのは、40人枠に入っていない選手のみです。
つまり、メジャーリーグで活躍している主力選手を獲得することはできません。
逆に、40人枠に入っていれば、ルール5ドラフトにより流出することを防ぐことができるため、流出してほしくない選手は40人枠に入れてしまうことが多くあります。
2019年の場合、各チームは11月20日までに40人枠を決定し、ルール5ドラフトに備える必要がありました。
このとき、40人枠に余裕のあるチームは、流出してほしくない有望株を11月20日までに40人枠に追加しましたが、40人枠が埋まっているチームはそのようなことができません。
そこで、そのようなチームは40人枠の選手をトレードで放出、または40人枠から除外することで、有望株を追加するための枠を確保しました。
そのため、11月20日には多くの選手が新たにフリーエージェントとなりました。
② 入団したばかりの選手は指名できない
ルール5ドラフトで獲得できる選手には、在籍年数による制限もかかります。
具体的には、18歳以下で入団した選手は在籍5年以上、19歳以上で入団した選手は在籍4年以上である必要があります。
そのため、40人枠に入っていない選手でも、ドラフトされたばかりというような選手は、ルール5ドラフトで指名することができません。
③ 指定のレベルでプレーさせなければならない
ルール5ドラフトには、「メジャーリーグ・フェイズ」と「マイナーリーグ・フェイズ」の2つで構成されています。
このうち、メジャーリーグ・フェイズでは、指名して獲得したチームは、選手をメジャーリーグの25人枠(アクティブ・ロースター)にシーズンを通しておいておかなければなりません。
また、マイナーリーグ・フェイズでは、選手をトリプルAの開幕ロースターに入れなければなりません。
つまり、獲得した選手をメジャーリーグで活躍できるようになるまで、下位のマイナーリーグで育成するということができないのです。
以上のことから、ルール5ドラフトで獲得できるような選手は、以下のような選手に限られます。
- 他のチームの40人枠に入っていない
- 在籍年数が一定の年数(4年または5年)に達している
- メジャーリーグやトリプルAで即戦力として期待できる
このような選手はごくわずかであるため、ルール5ドラフトで指名される選手は、多くても各チーム1人程度となっています。
ルール5ドラフトの成功例
ルール5ドラフトで指名される選手はわずかですが、中にはルール5ドラフトのおかげで飼い殺し状態から脱却し、メジャーリーグで活躍するに至った選手もいます。
ここでは、そのような選手を数人紹介します。
成功例① ダン・アグラ
この投稿をInstagramで見る
ダン・アグラは2005年12月のルール5ドラフトにて、フロリダ・マーリンズに指名され、アリゾナ・ダイヤモンドバックスより移籍しました。
移籍直後のオープン戦で二塁手のレギュラーを獲得すると、打率.282、27本塁打、90打点を記録しました。
特に、27本塁打という数字は、新人二塁手の本塁打記録を68年ぶりに更新するものであり、オールスターゲームにも選出されました。
翌2007年からは5年連続で30本塁打以上を記録し、メジャーリーグを代表する強打の二塁手へと成長しました。
2015年を最後にプレーしていませんが、通算で235本塁打を記録しています。
成功例② ホアキム・ソリア
この投稿をInstagramで見る
ホアキム・ソリアは2006年12月のルール5ドラフトにて、カンザスシティ・ロイヤルズに指名され、サンディエゴ・パドレスより移籍しました。
移籍した当初から中継ぎとして活躍し、1年目には17セーブ、9ホールド、防御率2.48を記録します。
翌2008年にはクローザーに定着し、42セーブ、防御率1.60を記録したうえ、オールスターゲームにも選出されました。
その後、不調やトミー・ジョン手術を経験しながらも投げ続け、2019年時点でもまだ現役のメジャーリーガーとして活躍しています。
成功例③ ビクター・レイエス
この投稿をInstagramで見る
まだメジャーリーグにて大活躍するには至っていませんが、今後の活躍が期待できる選手です。
ビクター・レイエスは2017年12月のルール5ドラフトにて、デトロイト・タイガースに指名され、アリゾナ・ダイヤモンドバックスより移籍しました。
2018年は年間を通してメジャーリーグでプレーしましたが、打率.222と苦戦しました。
しかし、徐々にメジャーリーグに適応し、2019年は69試合の出場にとどまりましたが、打率は.304まで上昇しました。
デトロイト・タイガースは現在低迷しており、2020年にはより出場機会を得られると考えられるため、今後が楽しみです。
日本で導入される現役ドラフトとは
ここまでお伝えしたように、メジャーリーグでは飼い殺し状態だった選手が、ルール5ドラフトを経て、他のチームでチャンスを得ています。
この成功を踏まえ、日本球界でもルール5ドラフトのような現役ドラフトを導入する動きができました。
2019年の12月には、現役ドラフトの案が発表され、以下のようなものでした。
- 各チームが対象となる8人を選定し、リストを作成
- チームAの選手をチームBが指名した場合、次のチームはチームA以外から指名
- これを1巡するまで繰り返し、全チームから最低1人が指名されるようにする。
以上のような案のもと、チームで埋もれている選手にチャンスを与えるような仕組みになっています。
ルール5ドラフトとは制度が大きく異なりますが、その結果日本球界がどのように変わっていくか楽しみです。
まとめ!
- 日本球界が導入を検討している現役ドラフトは、メジャーリーグのルール5ドラフトに由来している。
- ルール5ドラフトには様々なルールが設けられており、指名できる選手は限られている。
- 過去に指名された選手のなかには、オールスターゲームに選出された選手もいる。
- 日本球界が導入を検討している現役ドラフトでは、各チームはリストアップされた8人の中から指名されることが予定されている。