従来、野球選手の成績といえば、打者であれば打率や打点数や本塁打数、投手であれば勝利数や防御率が用いられてきました。
しかし、最近では、打撃成績であればOPSやwOBA、投手であればWHIPやFIPといった新しい指標が利用されるようになってきました。
このような指標が生み出された背景には、セイバーメトリクスの発展があります。
セイバーメトリクス(SABRmetrics)とは、野球におけるデータを統計学により客観的に分析し、選手の評価や戦略に活かす方法のことであり、ライターおよび野球史研究家であるビル・ジェームズにより提唱されました。
提唱された当初は、野球に対する従来の考え方を否定していたことや、ビル・ジェームズの野球のプレー経験が乏しかったことなどにより、批判的に扱われていました。
しかし、セイバーメトリクスを用いたことにより成功するチームが増えるにつれ、セイバーメトリクスの評価が高まりました。
それに伴い、セイバーメトリクスに基づいた指標が多く提案され、メジャーリーグの公式サイトやESPNなどの主要なスポーツメディアにて用いられるようになりました。
今回の記事では、そのようなセイバーメトリクスに基づく指標を説明します。
セイバーメトリクスの指標一覧
メジャーリーグではセイバーメトリクスに基づく指標が非常に多く用いられています。
そのなかでも、特に使用頻度の高いものを以下の表にまとめました。
指標 | 正式名称 | 説明 | |
打撃成績 | OPS | On-base Plus Slugging | 出塁能力と長打力を評価する指標です。詳しくは小見出しで説明します。 |
wOBA | weighted On-Base Average | 1打席あたりにどれだけチームの得点増加に貢献したかを表す指標です。 | |
IsoP | Isolated Power | 純粋な長打力を評価する指標です。 | |
RC | Run Created | 得点能力を表す指標です。OPSでは評価できない、走塁能力を評価することができます。 | |
投手成績 | QS | Quality Start | 先発投手の安定感を表す指標です。詳しくは小見出しで説明します。 |
WHIP | Walks plus Hits per Innings Pitched | 1投球回あたりに許した走者の数のことを指します。 | |
FIP | Fielding Independent Pitching | 味方の守備や運などの「投手がコントロールできない要素」を省き、奪三振や与四球、被本塁打などの「投手がコントロールできる要素」を場合の防御率です。 | |
守備成績 | DRS | Defensive Runs Saved | 平均的な野手に比べて何点防いだかを表す指標です。 |
その他 | BABIP | Batting Average on Balls In Play | グラウンド内の打球が安打になった割合のことを指します。打撃成績および投手成績の両方で用いられています。詳しくは小見出しで説明します。 |
WAR | Win Above Replacement | 打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す指標です。 |
以上の指標は、セイバーメトリクスに基づき提案された指標の一部です。
実際には、上の表では紹介できなかった指標が用いられることがあり、その場合は後ほど説明する「セイバーメトリクスを学ぶなら」を参照してください。
OPSとは
OPSとは打者の出塁能力と長打力を示す指標であり、出塁率と長打率を足すことで求めることができます。
ここで、例を用いてOPSの使い方について説明します。
選手 | 試合数 | 本塁打数 | 打率 | OPS |
ホーヘイ・ソレア | 162 | 48 | .265 | .922 |
エロイ・ヒメネス | 122 | 31 | .267 | .828 |
上の表の成績は、2019年のある2選手の打撃成績です。
この2選手を打率だけで評価した場合は、打者としての評価はほぼ同じとなります。
しかし、本塁打数に注目すれば、ソレアの方が優秀な打撃成績を残しているといえます。
とはいえ、ソレアの方が試合数は多く、本塁打数が多いのは試合数や打席数によるものともいえるため、ソレアの方が優秀とは断定しにくくなってしまいます。
そこで、OPSに注目すると、ソレアの方が大幅に高くなっており、これによりソレアの打撃成績の方が優秀といえるようになります。
QSとは
QSとは、「6投球回以上、3自責点以下」の先発登板のことを表しています。
QSの数が多い先発投手は、「6投球回以上、3自責点以下」の先発登板が多いということであり、安定感のある先発投手だといえます。
ここで、例を用いてQSの使い方について説明します。
選手 | 先発数 | 勝敗 | 防御率 | QS |
マディソン・バンガーナー | 34 | 9勝9敗 | 3.90 | 20 |
ウェイド・マイリー | 33 | 14勝6敗 | 3.98 | 14 |
上の表の成績は、2019年のある2選手の投手成績です。
まず、勝敗に注目した場合、マイリーは大幅に勝ち越しており、マイリーの方が良い成績を残しているように思えます。
また、防御率に注目した場合は、2選手の成績はほとんど変わらないように思えます。
しかし、QSの数、つまり「6投球回以上、3自責点以下」の先発登板の数は、バンガーナーの方が多くなっています。
実は、マイリーは好不調の波が激しく、安定して「6投球回以上、3自責点以下」というような、まずまずの結果を残すことは苦手なタイプなのです。
その点では、バンガーナーの方が安定感のある、チームにとってありがたい先発投手だといえます。
BABIPとは
BABIPとはグラウンド内の打球が安打になった割合のことを指します。
BABIPは打者・投手の両方について計算することができ、以下のように用いられています。
BABIPが高い | BABIPが低い | |
打者 | 打った球がよく安打になっている。
↓ 運が良い。 |
打った球があまり安打にならない。
↓ 運が悪い。 |
投手 | 打たれた球がよく安打になっている。
↓ 運が悪い。 |
打たれた球があまり安打にならない。
↓ 運が良い。 |
ここで、例を用いてBABIPの使い方について説明します。
シーズン | 打率 | OPS | BABIP |
2007年 | .363 | 1.029 | .381 |
2008年 | .317 | .869 | .334 |
上の表は、マグリオ・オルドニェスという選手の2007年と2008年の打撃成績です。
2007年にオルドニェスは打率.363を記録し、首位打者に輝きました。
しかし、このときのBABIPは.381と高く、打った球がよく安打になっており、とても運が良かったという一面もありました。
その結果、2008年にはBABIPが平凡な数値に落ち着いたため、打率も下落しました。
このように、BABIPが極端に高い打者は、翌年に打率が大きく下がる危険性があるといえます。
シーズン | 勝敗 | 防御率 | BABIP |
2012年 | 10勝11敗 | 3.10 | .264 |
2013年 | 12勝10敗 | 5.17 | .308 |
また、上の表はジェレミー・へリクソンという選手の2012年と2013年の投手成績です。
2012年にヘリクソンはリーグ6位の防御率3.10を残しました。
しかし、このときのBABIPは.264と低く、打たれた球が安打になりにくかったため、運が良かったという一面がありました。
その結果、2013年にはBABIPが上昇したため、防御率も上昇しました。
このように、BABIPが極端に低い投手は、翌年に被安打が増え、成績が悪化する危険性があるといえます。
セイバーメトリクスを学ぶなら
今回の記事では、セイバーメトリクスに基づく指標の一部を紹介しましたが、セイバーメトリクスの指標は他にも多く用いられています。
また、スタットキャストの発展により、少しずつ新たな指標が生み出されています。
そのようなセイバーメトリクスを学ぶための手段として、以下のものが挙げられます。
① 雑誌「スラッガー」
2か月に1回(奇数月)に発刊されている、日本のメジャーリーグ専門誌です。
セイバーメトリクスに関する特集や解説記事があり、気軽にセイバーメトリクスに触れることができます。
② Webサイト「Fangraphs」
メジャーリーグのデータサイトの1つであり、セイバーメトリクスに関する情報が充実しています。
サイト上部にある「Glossary」というボタンより、セイバーメトリクスに基づく指標について調べることができます。
ただ、サイトは全て英語のため、読む際に時間と労力を要します。
まとめ!
- セイバーメトリクスとは、野球におけるデータを統計学により客観的に分析し、選手の評価や戦略に活かす方法のことであり、ビル・ジェームズにより提唱された。
- セイバーメトリクスに基づく指標が多く提案されており、打撃成績や投手成績などとしてよく用いられている。
- セイバーメトリクスに基づく指標としては、OPS、QS、BABIPなどが挙げられる。
- セイバーメトリクスについては、雑誌「スラッガー」やWebサイト「Fangraphs」で学ぶことができる。