2015年10月4日、マイアミ・マーリンズに所属しているイチローが、フィラデルフィア・フィリーズ戦の8回裏に登板し、大きな話題になりました。
この登板の背景には、イチローが「マウンドに1回は立ってみたい」と思っていたことや、この試合はシーズン最終戦であり、マーリンズにプレーオフ進出の可能性はなかったことが挙げられます。
しかし、このような特殊な状況でなくても、メジャーリーグでは野手が登板することが多くあります。
今回の記事では、メジャーリーグでの野手登板について解説します。
メジャーリーグでの野手登板の理由
メジャーリーグにおいて野手が登板する理由は大きく2つあり、ここではその理由について解説します。
大差で負けている
近年のメジャーリーグでは打高投低の傾向があるため、大きく点差が開く試合が増えています。
もし、試合の終盤で大きく点差が開いている場合、負けているチームが逆転して勝つことは、非常に難しいといえます。
そのようなとき、出場できる投手を消費することは無駄と考えられるため、野手を登板させることがあります。
そのような試合の具体例として、2019年6月22日のニューヨーク・メッツ対シカゴ・カブスの試合が挙げられます。
下のURLは、この試合の選手成績です。
この試合では、カブスの先発投手であるホセ・キンタナが炎上し、序盤から点差が大きく開いてしまいます。
一方で、カブスの打線は8回裏までに1得点に抑えられていました。
ここで、カブスは勝つことは厳しいと判断し、一塁手として出場していたビクター・カラティーニを9回表に登板させました。
カラティーニはメッツを無失点に抑えましたが、判断通り、試合には10対2で負けてしまいます。
しかし、9回表に投手を消費することを避けることができたといえます。
なお、下の動画はカラティーニが登板したときのものです。
このときのカラティーニのフィールディングは最高です。
延長戦が長引き、登板できる投手がいない
日本球界では、引き分けだった場合の延長戦は12回までしか行われません。
しかし、メジャーリーグでは決着がつくまで延長戦を続けます。
そのため、試合によっては20回程度まで続くことがあります。
このような試合では、出場できる投手の人数が限られているため、投手の代わりに野手が登板することがあります。
そのような試合の具体例として、2019年7月25日のボルチモア・オリオールズ対ロサンゼルス・エンゼルス・オブ・アナハイムの試合が挙げられます。
下のURLは、この試合の選手成績です。
この試合では、両チームが9回に点を入れ、延長戦に突入しました。
この時点では、オリオールズはミゲル・カストロ、エンゼルスはキャム・ベドローシアンと、勝ちパターンの投手が登板していました。
しかし、両チームとも点を入れることができず、勝ちパターンの投手がいなくなってしまいました。
そこで、オリオールズはガブリエル・イノア、エンゼルスはアダルベルト・メヒアにマウンドを託しました。
これらの投手は先発投手としての経験があり、長いイニングを投げることができます。
その結果、両チームとも15回に得点を入れることができましたが、結局同点となり、試合は16回に突入してしまいます。
それでも、16回表にオリオールズは2点を入れますが、15回裏に登板した投手は打たれており、できれば投手を替えて試合を終わらせたいところです。
しかし、これ以上出場できる投手はおらず、外野手であるスティービー・ウィルカーソンが登板することになりました。
最終的に、ウィルカーソンは16回裏を無失点に抑え、野手として初めてセーブを記録しました。
なお、下の動画はウィルカーソンが登板したときのものです。
こ、これは打てないかもしれない…まさかの投球術です。
以上のように、野手が登板する理由は大きく2つありました。
とはいえ、このような場面で登板する野手は限られており、主力の野手は登板することは非常に稀です。
一方で、先ほど紹介したカブスのカラティーニやオリオールズのウィルカーソンは登板する機会の多い野手であり、どちらも通算で4登板しています。
野手登板に関するルール
2019年までは野手登板に関するルールは特にありませんでした。
しかし、2020年より、野手登板に関するルールが追加されました。
これは、「野手の登板が可能なのは、6点差以上ついている場合か、延長戦の場合のみ」というルールです。
ただ、現状でも野手が登板するのはこのような場面であることが多く、2020年から一気に野手登板が減るということはなさそうです。
野手登板にまつわる記録
先ほど紹介したウィルカーソンは、野手としてセーブを記録した初めての選手です。
同じように、野手として勝利投手となった例も複数あります。
例えば、2011年5月25日に、フィラデルフィア・フィリーズのウィルソン・バルデスが19回表に登板して無失点に抑えたうえで、裏にチームが勝利したため、勝利投手となりました。
下の動画はバルデスが登板したときのものです。
また、オリオールズの主砲として活躍したクリス・デービスも、2012年の5月6日に野手登板し勝利投手となっています。
下の動画はデービスが登板したときのものです。
一方で、日本人メジャーリーガーでは、イチローだけでなく青木宣親も、2017年6月30日に野手登板を経験しています。
青木が登板したのは、所属していたヒューストン・アストロズが10対4で負けているときでした。
今後も、日本人野手の所属しているチームが大差で負けているか延長戦に突入しているとき、日本人野手の登板を見ることができるかもしれません。
まとめ
- メジャーリーグで野手が登板するのは、大差で負けているときや、延長戦が長引いて投手がいないときである。
- 2020年から、「野手の登板が可能なのは、6点差以上ついている場合か、延長戦の場合のみ」というルールが定められた。
- 過去には、野手でありながら勝利やセーブを記録した例がある。