社会人野球の最も大きな大会といえる都市対抗野球では「補強選手」という制度があります。
簡単に言えば他チームからの助っ人選手なのですが、大会期間中のみ補強されたチームの選手としてユニフォームを着て戦うという独特なシステムです。
これは「都市対抗」の名の通りに各地区を代表するチームとして出場しているという背景から導入されています。
2010年以降は出場各チームが同じ地区予選で敗れたチームから最大3名を補強することができます。(それまでは細かい変遷はあるが最大5名まで、また前年優勝で推薦出場チームは適用なし)
補強選手のメリットはチーム力のアップですが、選手にとっても予選で敗れながらも本戦に
出場して活躍することでアピールにつながるため、その後プロ野球へ進んだ選手も多くいます。
今回の記事では、都市対抗の補強選手として活躍
その後プロの道へと進んでいった選手について紹介していきます。
補強選手からプロへ
若松勉
小さな大打者といわれた若松勉は北海高校から地元の電電北海道へ進みますが、当時は道内に拓銀、大昭和製紙北海道など強豪チームが多かったことで自身のチームでは都市対抗出場を果たすことができませんでした。
そのなかで2年目から前述2チームに2回ずつ補強選手として選出されると4年連続の都市対抗野球出場となり、大会では本塁打を放ったことで補強先の大昭和製紙から冗談交じりに移籍を誘われたようです。
体格に恵まれず、安定した企業勤務であったためにプロ入りに消極的ながらも後に恩師となる中西太氏の熱心な誘いでその道が開かれました。
落合博満
第90回の都市対抗野球決勝戦で始球式を務めた落合博満も社会人野球を自らの原点と語ります。
高校時代は殆ど実績のなかった落合は縁あって入部した東芝府中の野球部で実質的な野球のキャリアをスタートすると、自らのチームで都市対抗野球出場を果たすだけでなく日本通運、電電東京(現NTT東日本)の補強選手として3年連続で本戦出場し、当時のアマチュア日本代表に選出されています。
そしてプロ野球のドラフト指名を受けたという経緯からも都市対抗での活躍がその後の道を開いたといっていいでしょう。
指導者時代も社会人野球出身選手に期待していた落合の野球人生の出発点になります。
佐々岡真司
長らく広島のエースとして活躍した佐々岡真司投手は社会人野球時代も広島の地で腕を磨きました。
島根・浜田商では県内で注目される存在だったものの、甲子園出場はならずにNTT中国へ入社。
単独チームで臨む日本選手権ではベスト8進出に貢献していますが、大きなアピールとなったのは1989年の都市対抗野球です。
三菱重工広島の補強選手として出場すると、NTT東京・与田剛との投げ合いに勝ち、準々決勝では大昭和製紙北海道(この年準優勝)に敗れたものの野茂英雄、潮崎哲也、古田敦也なども出場した注目度の高い大会での活躍で地元・広島からドラフト1位指名され、カープ一筋の野球人生につながります。
大塚晶則
近鉄時代にはストッパーとして優勝に貢献し、その後はメジャーにも挑戦した大塚晶則(旧名・晶文)は社会人野球時代にも都市対抗野球で胴上げ投手の経験を持っています。
1996年の都市対抗野球ですがマウンドで彼が着ていたのはHONDAのユニフォームでした。
所属は同じ埼玉のライバル日本通運でしたが補強選手としての出場です。
この年、本田技研にはやはりプロ入りする入来祐作がエースとして躍動し、橋戸賞(大会MVP)を受賞する大車輪でした。
決勝でもまさに入来-大塚のリレーで1点差試合をものにして栄冠を勝ち取りました。
その後、WBCを含めて緊張感ある場面を経験する土台になったのはこの大会でしょう。
小笠原道大
引用:https://blogs.yahoo.co.jp/chiba_shigeru_no3
2000本安打達成者の小笠原も社会人野球で成長した選手の一人です。
後にプロでタイトルも争うような関係になる三冠王・松中信彦とチームメイトとしてプレーしました。
小笠原はNTT関東(現在は統合されNTT東日本)で打力が売りの捕手として1996年に同県の新日鉄君津(現・日本製鉄かずさマジック)に補強されます。
そこで4番を打ったのが五輪代表帰りの松中信彦でした。
2回戦では両者ともに本塁打を放って、ベスト8まで進出。
この年、松中は当時の逆指名制度を経て、一方の小笠原は3位であまり注目されずにプロ入り。
後に小笠原が語ったところでは、補強先で同じ左打者の松中に刺激を受けて練習量も多くなったということ。
補強制度によって選手の成長につながるというメリットを物語るエピソードです。
都市対抗の補強選手まとめ!
紹介しただけでも多くの名選手が都市対抗野球の補強選手制度をステップにしています。
個々の実力があれば、自身のチームが出場できずともこのようなチャンスがあるという魅力的な制度です。
また、所属するチームが毎年出場するようだと補強選手は経験しません。
広島で活躍する一岡竜司投手などは専門学校野球部(社会人の連盟所属)時代に補強で都市対抗を経験してそのままプロ入りするという扉を開きました。
補強される時点で実力を持った選手であるため、大会ではぜひ注目してその動きをチェックしてみましょう。