イチローや松井秀喜、現役では田中将大や大谷翔平など、国内でプレーをしていたプロ野球選手が海外でプレーする姿は今ではごく一般的なことになりました。
ここでは、国内のプロ野球選手が海外でプレーをするために利用する制度であるポスティング制度の仕組みについて解説し、海外FAとの違いを見ていきます。
ポスティング制度
ポスティング制度(ポスティングシステム)は、1998年に調印された「日米間選手契約に関する協定」によって創設された、NPBからMLBへの選手の移籍に関するシステムの1つです。フリーエージェント(FA)の権利を保持していない選手が海外への移籍を希望した場合に、その選手の所属球団が行使する権利です。
2012年までは、当該選手との契約交渉を希望するMLB球団が、交渉権の対価となる金額を非公開で入札し、最高金額を入札した球団だけが独占交渉権を得る制度でした。
入札金額に上限はなく、選手が交渉を行えるのは最高金額で落札した1球団のみであったため、当該選手には移籍先の球団を選ぶ権利はありません。
この制度での入札金額の最高は、北海道日本ハムファイターズからテキサス・レンジャースに移籍したダルビッシュ有選手。その金額は5170万3411ドルでした。
※落札金額ベスト5
年度 | 選手 | 所属球団 | 落札球団 | 落札金額 |
2011 | ダルビッシュ有 | 日本ハム | レンジャース | 5170万3411ドル |
2006 | 松坂大輔 | 西武 | レッドソックス | 5111万1111ドル11セント |
2006 | 井川慶 | 阪神 | ヤンキース | 2600万194ドル |
2000 | イチロー | オリックス | マリナーズ | 1312万5000ドル |
2001 | 石井一久 | ヤクルト | ドジャース | 1126万4055ドル |
そんなポスティングシステムでしたが、入札金額の高騰などを理由にMLB側が協定の修正を提案。2014年からは新制度が開始されます。
新制度では、移籍を希望する選手の所属している球団が交渉権の対価となる譲渡金(上限2000万ドル)を設定し、その譲渡金に応札するMLBの全球団が当該選手と契約交渉を行うことが出来るようになりました。
この制度を利用した一例として、東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大がニューヨーク・ヤンキースに譲渡金2000万ドルで移籍しています。
※移籍が成立した例
年度 | 選手 | 所属球団 | 落札球団 | 落札金額 |
2013 | 田中将大 | 楽天 | ヤンキース | 2000万ドル |
2015 | 前田健太 | 広島 | ドジャース | 2000万ドル |
2017 | 大谷翔平 | 日本ハム | エンゼルス | 2000万ドル |
2017 | 牧田和久 | 西武 | パドレス | 50万ドル |
ポスティング制度と海外FAとの違い
NPBの選手がMLBへ移籍するには、ポスティングによる方法と海外FA権を行使する方法の2通りが存在します。
ポスティングシステム | 海外フリーエージェント(FA) | |
権利 | 選手が希望し球団が行使 | 海外FA資格条件を満たした選手 |
譲渡金 | 最大2000万ドル | なし |
ポスティング制度まとめ!
ドラフトやトレードなど、プロ野球選手は所属する球団を自ら選ぶことが出来ません。
自身で球団を選択できるのは国内・海外を問わずフリーエージェント(FA)権を取得する方法だけでした。
MLBへの移籍についても、改正前のポスティングシステムにおいては、最高額で落札した球団とのみ交渉が可能でした。システムの改正後は、所属球団が設定した譲渡金を支払った球団との交渉が可能となり、複数の球団の中から選手の意志によって球団を選択することが出来るようになりました。また、選手にとっては、若い年齢でMLBに挑戦することが出来ることもポスティングのメリットとして考えられています。
しかしながら、MLB側にとっては、選手へ支払う契約金などとは別に、当該選手が所属する球団へ譲渡金を支払う必要があるため、日本国内で優秀な成績を残した選手でない限り、なかなか応札しにくいという点も存在しています。
ポスティングによる移籍が成立しなかった選手が出た場合、所属球団が設定した譲渡金はいくらだったのか。何球団が選手との交渉権を得るために譲渡金を支払うこと表明したのか。そしてそれぞれの球団と選手の契約交渉はどうだったのか。
ポスティングシステムの概要を知ることで、また新しい見方が出来るようになると思います。