2020年8月18日、サンディエゴ・パドレスに所属しているフェルナンド・タティス・ジュニアが、テキサス・レンジャーズ戦で満塁ホームランを放ちました。
しかし、この満塁ホームランは、「大差でリードしている場合、3ボール、0ストライクから打ちにいってはいけない」というメジャーリーグの暗黙のルールを破るものでした。
その後、レンジャーズのクリス・ウッドワード監督が、この行為に対して「好きではない」と発言するなど、物議を醸しています。
今回の記事では、このようなメジャーリーグの暗黙のルールについて解説します。
メジャーリーグの暗黙のルール
ここではメジャーリーグの暗黙のルールのうち、主なものを紹介します。
まずは、バッターに関する暗黙のルールです。
- 大差でリードしている場合、3ボール、0ストライクから打ちにいってはいけない
- 大差でリードしている場合、盗塁をしてはいけない
- 自らが放ったホームランに見とれてはいけない
- 相手投手のノーヒットノーランを破るために、バントをしてはいけない
- デッドボールを受けたとき、当たった箇所をさすってはいけない
- 相手投手のマウンドに上がってはいけない
これらのルールは、「対戦相手に敬意を払うこと」が目的だとされています。
次は、ピッチャーに関する暗黙のルールです。
- イニングの途中で降板した投手は、イニングが終わるまでベンチにいなければいけない
- エラーを犯した野手に対して不快感を表してはいけない
- 三振を奪ったときや、イニングを終わらせたときに、過度に喜んではいけない
以上のように、メジャーリーグには多くの暗黙のルールがあり、これらを破ると、報復死球を受けることや、乱闘に発展することがあるようです。
暗黙のルールを破ると…
ここでは、暗黙のルールが破られた例と、その後の経過を紹介します。
① デレク・ディートリックのホームラン
2019年4月7日、シンシナティ・レッズに所属していたディートリックは、ピッツバーグ・パイレーツのクリス・アーチャーからホームランを放ちました。
このとき、ディートリックはホームランを放ってからも打席に立ち続け、ホームランに見とれているような仕草をしました。
これが「自らが放ったホームランに見とれてはいけない」という暗黙のルールに反していると考えたアーチャーは、次の打席でディートリックの背後に投げてしまいます。
その結果、乱闘が起き、レッズのデビッド・ベル監督や主砲のヤシエル・プイグら5人が退場となってしまいました。
② ベン・デービスのバント
2001年5月26日、アリゾナ・ダイヤモンドバックスに所属していた先発投手のカート・シリングは、パドレス相手に8回途中まで走者を1人も許さず、完全試合への期待が高まっていました。
しかし、これに対してパドレスのデービスはバントを仕掛けて内野安打で出塁し、シリングの完全試合を終わらせてしまいます。
結果的に、ダイヤモンドバックスは試合に勝利し、シリングも勝ち投手になることができましたが、ダイヤモンドバックスの監督であるボブ・ブレンリーはデービスのバントを「チキン(臆病者)」と批判しました。
また、この試合では報復死球や乱闘は起きませんでしたが、その後のダイヤモンドバックスとパドレスの試合では、乱闘に発展することがあったようです。
③ 喜びすぎたアミール・ギャレット
2019年9月18日、レッズに所属していたギャレットは、シカゴ・カブス戦の同点の9回裏、カイル・シュワーバーから三振を奪い、イニングを終わらせました。
しかし、このときのガッツポーズが大げさだったため、シュワーバーはギャレットに暴言を吐いてしまいます。
これを聞いたギャレットは、乱闘を避けるために、急いでベンチに戻りました。
なお、同じ年の7月30日のパイレーツ戦では、パイレーツの選手と口論になり、1人でベンチに殴り込んで乱闘を引き起こしています。
これによりギャレットは8試合の出場停止処分を受けており、このような乱闘を避けるため、カブス戦では急いでベンチに戻ったのかもしれません。
暗黙のルールに対する選手たちの声
以上のような暗黙のルールについて、選手から様々な声が上がっています。
まず、タティス・ジュニアは3ボール、0ストライクから満塁ホームランを放ったことについて「今回は、うっかりしていた。こうした経験から学ぶしかない。」と反省の言葉を述べています。
しかし、タティス・ジュニアのチームメートである投手のザック・デイビーズは「誰だって好球を見逃したくはないだろう。だから、タティスを責めるのは間違っているよ。」とタティス・ジュニアを擁護しています。
また、レッズの投手であるトレバー・バウアーは、「謝罪するのは間違っている。」という旨のツイートを投稿しました。
さらに、シカゴ・ホワイトソックスの内野手であるティム・アンダーソンは、「次にこんなことがあっても、謝る必要はない。」とツイートし、タティス・ジュニアを擁護しています。
なお、アンダーソンは以前より「球界のつまらない壁(暗黙のルール)を壊したい。」と発言しており、ホームランを放った際には派手なバットフリップを披露しています。
このように、タティス・ジュニアを擁護する選手や、暗黙のルールに疑問を呈する選手が多くいることから、今後の時代とともに暗黙のルールは変化していくかもしれません。
まとめ
- メジャーリーグには「大差でリードしている場合、3ボール、0ストライクから打ちにいってはいけない」、「自らが放ったホームランに見とれてはいけない」などといった暗黙のルールが多くある。
- 暗黙のルールを破ると、報復死球や乱闘に発展することがある。
- しかし、タティス・ジュニアが暗黙のルールを破った際、タティス・ジュニアを擁護する声が多く上がったことから、今後暗黙のルールは変化していく可能性がある。