昔は先発完投型の投手と抑え投手が重宝され、中継ぎという概念は薄く、先発と抑えの間で投げる投手は、「繋ぎ」「敗戦処理」などの意味合いで捉えられていた時代もありました。
しかしながら、現代野球においては投手の分業制が明確に出ており、先発・中継ぎ・抑えと3つに分類され、それぞれの役割も明確になっています。試合を作る上では中継ぎ投手も勝利のために必要なパーツとして大きな役割を果たしています。
一方で、投手にもタイトル(成績)があり、その中には最多勝というものがあります。
先発完投型が主流であった時代には、あまり大きく取り上げられることはなかったものの、分業制が進んだ今、改めて、「勝利投手の権利」というものがどういう条件のもとで発生するのかを整理する必要があるため、ここでは、その条件について解説を行って参ります。
勝利投手の権利
公認野球規則9.17によって、以下のように記されています。
ある投手の登板中の攻撃、あるいは登板中の投手が代打又は代走と交代して退いた回の攻撃で自チームがリードを奪い、しかもそのリードが試合終了まで保たれた場合、その投手が勝利投手になる。
ただし、次の場合はその限りではない。
- その投手が先発投手の場合、5イニング以上投球しなかった場合。
- その投手が救援投手の場合、投球イニングが少なくかつ勝利に効果的でなく、それに続いて登板した投手のいずれかがより勝利に効果的な投球をしたと判断される場合。
つまり、先発投手であれば、5イニング以上を投げ切った時点で自チームがリードをしており、そのリードを保ったまま試合が終了した場合には勝利投手の権利が与えられるということになります。
以降は、救援投手において勝利投手の権利が与えられるケースについて取り上げて参ります。
- 先発投手が投球中に勝ち越すも、投球が5イニング未満の場合
※救援投手が1人 ⇒ その投手が勝利投手
※救援投手が複数 ⇒ 投球イニングが他の投手より1イニング以上多い投手がいる時はその救援投手
投球イニングが同じか、もしくは差が1イニング未満の場合は、最も効果的な投球をしたと公式記録員が判断した1人の投手
- 救援投手の登板中に勝ち越し、そのまま試合終了となった場合
※その投手の投球が1イニング以上の場合は、無条件でその投手が勝利投手
※投球が1イニング未満で且つ前の投手が残した走者を含め2失点以上した場合は、原則、勝ち投手にはならない。その場合は、先に説明した「先発投手が投球中に勝ち越すも、投球が5イニング未満の場合」と同じ条件が適用されます。
救援のみで最多勝のタイトルを獲得した選手
長いプロ野球の歴史の中で、1名だけが記録しています。
元ヤクルトスワローズの伊東昭光氏です。
1988年に18勝を挙げタイトルを獲得するのですが、そのすべてが救援での勝利というすばらしい記録となっています。
なお、伊東氏の最多勝は、規定投球回数を満たさない中での獲得であったことも異例の出来事でした(その後は、2005年の下柳剛(元;阪神タイガース)や2020年の石川柊太(ソフトバンクホークス)が規定投球回数未達で最多勝を獲得)。
勝利投手の権利まとめ
- 先発投手は、自身が投球中に勝ち越しリードを保ったまま試合終了(5イニング以上の投球が必要)
- 救援投手は、その投手が1名の時はその投手、複数の場合はさまざまなルールが決められている。
- 救援だけで最多勝のタイトルを獲得した選手がいる(元ヤクルトスワローズ;伊東昭光)
このルールを元に、珍記録も出ています。
日本のプロ野球では、1人の打者との対戦が完了しないまま勝ち投手になった選手が2名(小林雅英(元;千葉ロッテマリーンズ)・久古健太郎(元;東京ヤクルトスワローズ))いたり、海の向こうの大リーグでは、打者に1球も投じないまま勝ち投手になった、いわゆる0球勝利を挙げた選手(B・J・ライアン(ボルチモア・オリオールズ))もいるのです。